東京高等裁判所 平成7年(行ケ)47号 判決 1998年6月11日
東京都千代田区丸の内2丁目2番3号
原告
三菱電機株式会社
同代表者代表取締役
北岡隆
同訴訟代理人弁理士
竹中岑生
同
大槻聡
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 荒井寿光
同指定代理人
内藤照雄
同
石井研一
同
井上雅夫
同
小池隆
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
「特許庁が平成6年審判第8338号事件について平成6年12月9日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
2 被告
主文と同旨の判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和61年12月12日、名称を「半導体メモリ装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき、昭和57年特許願第95932号(昭和57年6月2日出願。以下「原出願」という。)からの分割出願として特許出願(昭和61年特許願第297066号)をし、平成4年3月10日出願公告されたが、特許異議の申立てがあり、平成6年4月19日拒絶査定を受けたので、同年5月19日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成6年審判第8338号事件として審理した結果、平成6年12月9日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成7年2月6日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
メモリセルをマトリクス状に配置したメモリセルアレイを列方向に分割して配置した複数のメモリセル群と、この複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ各メモリセル群のうちの特定のものを選択するメモリセル群選択線と、前記複数のメモリセル群の配列方向の中間に設けられアクセスすべきメモリセル群の行アドレス情報を解読する行デコーダと、この行デコーダの出力端子に接続され前記複数のメモリセル群に亘って配置された前置ワード線と、前記複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ前記メモリセル群の選択信号と前記前置ワード線の選択信号とに基づいて活性化される分割ワード線とを備えたことを特徴とする半導体メモリ装置。
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2)<1> 米国特許第3、533、089号明細書(以下「引用例1」という。)には、特に第6図と第7図(別紙2参照)に関連して次のような半導体メモリ装置の発明が記載されている。
(a) MOSFET12、12a、12b、12cのように4ビットずつ列方向に分割された複数のメモリセル群からなるメモリセルアレイに対して、Xアドレスが供給されるXライン70、72、74と、Yアドレスが供給されるYライン30、32、34と、コモンビットライン78、80、82、84が配置されている。
(b) MOSFET12、12a、12b、12cが配置されたメモリセル列については、Xライン70とYライン30の交点にワードセレクタゲート76が設けられ、その出力側はMOSFET12、12a、12b、12cのゲートに共通に接続されている。また、MOSFET12、12a、12b、12cはそれぞれ個別のビットライン38、40、42、44と、Xアドレス作動ゲート86、88、90、92を介してコモンビットライン78、80、82、84に接続される。
(c) 個別のメモリセル、例えばMOSFET12に対する情報の書き込み、読み出し処理は、Xライン70、Yライン30、ワードセレクタゲート76により、メモリセルアレイの中からMOSFET12、12a、12b、12cのグループを選定し、更に、情報処理回路54の制御により、個別ビットライン38、Xアドレス作動ゲート86、コモンビットライン78を介してMOSFET12を入出力端子56、66に結合することにより行う。
<2> 特開昭56-19585号公報(以下「引用例2」という。)には、特に第2図を参照すると、消費電力の低減、メモリアクセスの高速性等の目的で、列方向に分割して配置された複数のメモリセル群の中間にローデコーダ2を設け、データ線D0~Dn、ワード線Wm~W0により特定のメモリセル1を選定するように構成した半導体メモリ装置の発明が記載されている。
(3) 本願発明と引用例1の一致点と相違点
<1>(a) 引用例1のMOSFET12、12a、12b、12c等の列方向に分割された複数のメモリセル群は、本願発明の「メモリセルをマトリクス状に配置したメモリセルアレイを列方向に分割して配置した複数のメモリセル群」に相当する。
(b) 引用例1のXライン70、72、74は、列方向に分割されたメモリセル群に対応して設けられ、特定のメモリセル群を選択するものであるから、本願発明の「複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ各メモリセル群のうちの特定のものを選択するメモリセル群選択線」に相当する。
(c) 本願発明の「前置ワード線」は、列方向に分割されたメモリセル群を複数列貫通して配置されたものであるが、引用例1のYライン30、32、34も列方向に分割されたメモリセル群を複数列貫通して配置されているから、本願発明の「複数のメモリセル群に亘って配置された前置ワード線」に相当する。
(d) 引用例1において、ワードセレクタゲート76等のMOSFETは、Xライン70の選択信号と、Yライン30の選択信号とに基づいて活性化され、その出力側に接続されたMOSFET12、12a、12b、12c等に信号を供給するものであるから、引用例1のワードセレクタゲート76等の出力信号線は、本願発明と同様にワード指定の信号を階層的にメモリセルに供給するものであり、本願発明の「複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ前記メモリセル群選択線の選択信号と前記前置ワード線の選択信号とに基づいて活性化される分割ワード線」に対応する。
<2>(a) 従って、両者は、「メモリセルをマトリクス状に配置したメモリセルアレイを列方向に分割して配置した複数のメモリセル群と、この複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ各メモリセル群のうちの特定のものを選択するメモリセル群選択線と、前記複数のメモリセル群に亘って配置された前置ワード線と、前記複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ前記メモリセル群選択線の選択信号と前記前置ワード線の選択信号とに基づいて活性化される分割ワード線とを備えたことを特徴とする半導体メモリ装置」において一致する。
(b) しかし、両者は、本願発明が「複数のメモリセル群の配列方向の中間に設けられアクセスすべきメモリセル群の行アドレス情報を解読する行デコーダと、この行デコーダの出力端子に前置ワード線を接続する」構成であるのに対して、引用例1はこのような構成を具備しない点、において相違している。
<3> なお、請求人は、引用例1に記載のものは例えば4個のメモリセル12、12a、12b、12cは信号処理の際に一単位として選定されるものであり、個別には選定されない旨の主張をしているのでこの点について検討すると、引用例1の1欄69行目ないし2欄1行目の「In the preferred--per word.」の記載、及び4欄5ないし7行目の「It will be--for clarity.」の記載等からみて、各メモリセルは個別に選定され得るものであるから、この点についての請求人の主張は認められない。
(4) 相違点についての判断
消費電力の低減、メモリアクセスの高速化という本願発明と目的において共通する引用例2には、列方向に分割して複数のメモリセル群を配置し、その配列方向の中間にアクセスすべきメモリセル群の行アドレス信号を解読する行デコーダを設け、行デコーダの出力端子にワード線を接続することが記載されており、ワード線に対する信号を行デコーダから供給する構成とすることや、該行デコーダをメモリセルアレイの中間部に配置するようなことは、当該技術分野においては慣用の技術とみられるから、引用例1においてYライン(前置ワード線)に対する信号供給を、引用例2のようにメモリセルアレイの中間部に配置した行デコーダから行う構成とすることに格別な困難性は認定できない。
そうすると、前記相違点は格別なものとはいえないものであり、また、本願発明により得られる効果も当業者において予測可能な範囲にとどまるものであって、格別なところはみられない。
(5) したがって、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決の取消事由
審決の理由の要点(1)は認める。
同(2)<1>のうち、(b)は認め、その余は争う。同(2)<2>は認める。
同(3)<1>は争う。同(3)<2>のうち、(a)は争い、(b)は認める。同(3)<3>は争う。
同(4)は認める。
同(5)は争う。
審決は、本願発明と引用例1に記載されたものとの一致点の認定を誤り(取消事由1)、信義則に反する認定判断をしたため(取消事由2)、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)
<1> メモリセル群
審決は、引用例1のMOSFET12、12a、12b、12c等の列方向に分割された複数のメモリセル群は、本願発明の「メモリセルをマトリクス状に配置したメモリセルアレイを列方向に分割して配置した複数のメモリセル群」に相当すると認定するが、誤りである。
本願特許請求の範囲にいう「メモリセルアレイを列方向に分割して配置した」各「メモリセル群」は、列アドレス信号に基づいて選択される複数の列を含むと解すべきである。
その理由は、次のとおりである。
(a) 各「メモリセル群」が列アドレス信号に基づいて選択される1列のみしか含まないと解すると、「メモリセルを列方向に分割」する技術的意義が全くなく、従来の「メモリセルをマトリクス状に配置したメモリセルアレイ」と同じ構成になってしまうこと。
(b) 「分割された各メモリセル群」には、特定のメモリセル群を選択する「メモリセル群選択線」が設けられており、本願発明は、列アドレス信号が印加される列アドレス線(引用例1第7図のXアドレス線70、72、74に対応)のみならず、特定のメモリセル群を選択する信号が印加される「メモリセル群選択線」を構成要件として含んでいること。
(c) 選択すべき特定のメモリセルを選択するために、行アドレス信号と列アドレス信号とを用いることは当業者に周知の技術であること。
これに対し、引用例1の第7図に記載されているのは、MOSFET12、12a、12b、12cは同一アドレスであるので、列方向に分割された複数のメモリセル群ではなく、単に4ビットずつ並列に読み書きできるように構成されたメモリセルアレイにすぎない。
<2> メモリセル群選択線
審決は、引用例1のXライン70、72、74は、列方向に分割されたメモリセル群に対応して設けられ、特定のメモリセル群を選択するものであるから、本願発明の「複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ各メモリセル群のうちの特定のものを選択するメモリセル群選択線」に相当すると認定するが、誤りである。
本願特許請求の範囲にいう「複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ各メモリセル群のうちの特定のものを選択するメモリセル群選択線」とは、メモリセルの特定の列あるいは同一列アドレスにある特定の複数列を選択するものではなく、「列方向に分割して配置した複数のメモリセル群」のうち「特定のメモリセル群」を選択するものである。本願発明では、その特定のメモリセル群の中の特定の列の選択は、列アドレス信号で行うように構成されているものである。
なお、本願特許請求の範囲には、列アドレス信号や列アドレス線について明記していないが、メモリセルをマトリクス状に配置した半導体メモリ装置において、特定のメモリセルを選択するのに、行アドレス信号と列アドレス信号とを用いること及びそれらの信号を印加する行アドレス線と列アドレス線とを備えていることは当業者にとって自明のことである。そこで、本願特許請求の範囲には、そのような当業者に自明な周知技術を明記しなかっただけである。
これに対して、引用例1の第7図に記載された半導体メモリ装置においては、上記<1>のとおり、「列方向に分割して配置した複数のメモリセル群」は存在しないから、引用例1の第7図のXライン70、72、74は、列方向に分割されたメモリセル群に対応して設けられてはおらず、特定のメモリセル群を選択するものではない。
<3> 前置ワード線
審決は、本願発明の「前置ワード線」は、列方向に分割されたメモリセル群を複数列貫通して配置されたものであるが、引用例1のYライン30、32、34も列方向に分割されたメモリセル群を複数列貫通して配置されているから、本願発明の「複数のメモリセル群に亘って配置された前置ワード線」に相当すると認定するが、誤りである。
引用例1の第7図に記載された半導体メモリにおいては、上記<1>のとおり、列方向に分割されたメモリセル群は存在しないから、Yライン30、32、34も列方向に分割されたメモリセル群を複数列貫通して配置されているということはできない。
<4> 分割ワード線
審決は、引用例1において、ワードセレクタゲート76等のMOSFETは、Xライン70の選択信号と、Yライン30の選択信号とに基づいて活性化され、その出力側に接続されたMOSFET12、12a、12b、12c等に信号を供給するものであるから、引用例1のワードセレクタゲート76等の出力信号線は、本願発明と同様にワード指定の信号を階層的にメモリセルに供給するものであり、本願発明の「複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ前記メモリセル群選択線の選択信号と前置ワード線の選択信号とに基づいて活性化される分割ワード線」に対応すると認定するが、誤りである。
(a) 引用例1の第7図に記載されているメモリセルアレイは、1つのアドレスに4ビットが対応するものであるから、このようなものにおいて、本願発明のような「メモリセルをマトリクス状に配置したメモリセルアレイを列方向に分割して配置した複数のメモリセル群」、「メモリセル群選択線」、「前置ワード線」及び「分割ワード線」を備えた構成にするためには、参考図1(別紙3参照)のごとき構成を必要とする。引用例1の第7図(別紙2参照)と参考図1とを対比すれば、引用例1の第7図には「前記複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ前記メモリセル群選択線の選択信号と前記前置ワード線の選択信号とに基づいて活性化される分割ワード線」は、開示も示唆もされていなことは明らかである。
(b) また、引用例1に記載のものにおいては、ワードセレクタゲート76等の出力信号は、Xライン70、72、74の選択信号とYライン30、32、34の選択信号とによって一義的に定まるものではないから、本願発明のように「前記メモリセル群選択線の選択信号と前記前置ワード線の選択信号とに基づいて活性化される分割ワード線」を備えているとはいえない。
すなわち、甲第6号証(山下博典編著「半導体集積回路」昭和45年6月20日初版発行 日刊工業新聞社)には、193頁記載の図5.30の3入力ゲートに関し、「入力としてG1~G3、出力としてD1、そしてS3を接地すると正論理NORとなる。すなわち、G1、G2、G3にしきい値電圧以上(絶対値でいう。)の負電圧が加わるとQ1、Q2、Q3はともにオンとなり出力は”1”となる。G1~G3のうちどれか一つが”1”状態のときはD1は”0”である。D2、D3についてはやや複雑で、D2についてはG1が”0”でQ1がオン状態ではG2、G3についてNORとなる。しかしG1が”1”(Q1がオフ状態)では、G2、G3がともに”0”のとき(Q2、Q3がともにオンのとき)に”1”となる以外は不定となる。というのはQ1がオフでQ2、Q3のいずれかがオフのときはD2からQ1、Q2側を見る抵抗は非常に高く、したがってD2の電圧はそれらの入力が入ってしばらくの間は寄生容量のため前の状態を保持するからである。」(192頁24行ないし194頁8行)との記載がある。また、194頁の表5.24には、図5.30の3入力ゲートの真理値表が示されている。
甲第6号証の図5.30(別紙4参考図2(a)参照)において、トランジスタQ2及びQ3がオフのときの出力端子D2の出力信号を考察する場合の回路が参考図2(b)(別紙4参照)のようになるが、参考図2(b)のトランジスタQ1は、引用例1第7図のワードセレクタゲート76等のMOSFETと等価であることは明白である。そして、参考図3(別紙5)により説明すると、引用例1第7図のワードセレクタゲート76、761、762、763、764、765の出力信号は、以下のようになる。
いま、Xアドレス線70が“H”、72、74が“L”、Yアドレス線30が“H”、32、34が“L”とすると、MOSFET76及び763はオンとなり、ワードセレクタゲート76の出力信号は“H”、ワードセレクタゲート763の出力信号は“L”となることは明らかである。ところが、MOSFET761、762、764、765は全てオフであるから、ワードセレクタゲート761、762、764、765の出力信号はともに不定(“H”又は“L”)となる。
したがって、メモリセル12を選択しようとしても、同時にメモリセル112や212が選択される。これらのメモリセル12、112、212は、すべて共通のビット線38に接続されているので、メモリセル12のデータを正しく読み書きすることが不可能である。
<5> 被告の主張に対する反論
(a) メモリセル群選択線について
被告は、引用例1の構成においても各メモリセル(12、12a、12b、12c)は、本願発明のメモリセル群選択線に相当するXライン(70、72、74)とは別の、本願発明実施例記載のビット線に相当するビットライン38、40、42、44に接続されており、この点において審決の引用例1の認定に誤りはないと主張する。しかしながら、引用例1の第7図によれば、Xライン70、72、74は、ビットライン38、40、42、44に接続されたXアドレス動作ゲート86、88、90、92に接続され、ビットライン38、40、42、44と共通ビット線78、80、82、84との接続を制御しており、この点において、引用例1のXアドレス線70、72、74は、本願発明のメモリセル群選択線とは異なるものである。
(b) ビット線について
本願発明の背景技術として、本願明細書(甲第2号証)には、次の記載がある。
「この構成による半導体メモリセル装置(注・第2図に示す従来の半導体メモリ装置)は同一行上のすべてのメモリセルが活性化されるので、全列に電源からメモリセルに電流が流れ込み、コラム数の多い大容量スタティックRAMを構成する場合、消費電流が大きくなる。そこで、消費電流を少なくするため、従来、第4図に示す半導体メモリ装置が提案されている。この場合、行デコーダ4をメモリセルプレーンの中央に配し、ワード線を左側ワード線3aおよび右側ワード線3bに分割し、左右のメモリセル群の選択された方のメモリセル群のワード線のみ活性化することにより、全列の内、半数の列にだけ電流パスを生じさせるものである。なお、12aおよび12bはそれぞれ左側ワード線3aあるいは右側ワード線3bを選択するアンドゲート、13aおよび13bはそれぞれこのアンドゲート12aおよび12bを開状態にするゲート信号線である。
次に、第5図は第4図の思想に基づいて構成した従来の半導体メモリ装置を示す配置図である。この場合、行デコーダ4aおよび4bを複数列配置し、ワード線3a~3bをその倍数だけ分割し、直流電流路のできる数を減少させるものである。」(3欄21行ないし43行)
本願明細書中の上記の記載から、本願発明は、第2図及び第4図に示された半導体メモリ装置の問題点を解決しようとするものであることが明らかである。
本願第4図に示された半導体メモリ装置は、同第2図に示された半導体メモリ装置の改良に係るものであることが、上記の本願明細書の記載から明らかである。そして、同第4図に示す半導体メモリ装置は、「行デコーダ4をメモリセルプレーンの中央に配し、ワード線を左側ワード線3aおよび右側ワード線3bに分割し、左右のメモリセル群の選択された方のメモリセル群のワード線のみ活性化することにより、全列の内、半数の列にだけ電流パスを生じさせるものである。」(3欄27行ないし33行)ことが明記されている。
そこで、同第4図において、分割されたワード線3a、3bとメモリセル1およびビット線2a、2bとの接続関係をみると、分割された左側ワード線3aには、2列にわたってメモリセル1とこれらのメモリセル1に接続された2列のビット線対2a、2bとが接続されたものが示されている。同様に、分割された右側ワード線3bにも2列にわたってメモリセル1とこれらのメモリセル1に接続された2列のビット線対(2a、2b)とが接続されたものが明示されている。
このように、本願発明の背景技術は、分割されたワード線3a、3bには、複数列のメモリセルと各メモリセルに接続された複数列のビット線対とが接続されるものであることを当然の前提としていることが明らかである。
次に、本願発明の実施例についてみると、本願明細書には、次のような記載がある。
「第1図は、本発明に係わる半導体メモリ装置の一実施例を示すブロック図であり、一例として、列方向に3個に分割したメモリセル群1a、1bおよび1cを配置した場合を示す。同図において、14a、14bおよび14cはこのメモリセル群1a~1cを選択するメモリセル群選択線、15は分割ワード線としてのワード線3a~3cと同一方向に並行して配置した前置ワード線、16a、16bおよび16cは入力端子がそれぞれ前置ワード線15とメモリセル群選択線14a~14cに接続し、出力端子がそれぞれワード線3a~3cに接続するアンドゲートである。行デコーダ4はメモリセル群の配列方向の中間に配置されている。
次に、上記構成による半導体メモリ装置の動作について説明する。まず、例えばメモリセル群1a内のメモリセルを選択する場合、アクセスすべきメモリセル群1aの行アドレス情報を行デコーダ4で解読し、前置ワード線15の1本を活性化する。そして、メモリセル群選択線14aに選択信号を加えると、アンドゲート16aが開き、ワード線3aを活性化する。したがって、図示せぬ電源から図示せぬビット線を経て、メモリセル群1aへ流れ込むコラム電流が流れるのは選択されたメモリセル群1a内にあるコラムのみである。」(4欄27行ないし5欄7行)
上記の明細書の記載中、「図示せぬ電源から図示せぬビット線を経て、メモリセル群1aへ流れ込むコラム電流が流れるのは選択されたメモリセル群1a内にあるコラムのみである。」とあるのは、分割ワード線3a~3cには、第4図に示したものと同様に複数列にわたってメモリセルがそれぞれ接続され、それらのメモリセルに複数列のビット線対が接続されていることを当然の前提として、「図示せぬビット線」としたものであると理解するのが自然である。
また、本願明細書には「メモリセル群選択線」に関し、「同図(注・第1図)において、14a、14bおよび14cはこのメモリセル群1a~1cを選択するメモリセル群選択線」(4欄30行ないし32行)であると明記されており、「メモリセル群選択線」と「ビット線」とは、明確に別異のものとして定義されている。
特許法70条2項は、「前項の場合においては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定するが、この規定は、特許出願に係る発明の要旨認定の場合にも同様に解すべきである。
以上述べたところから明らかなように、本願特許請求の範囲記載中の「この複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ各メモリセル群のうちの特定のものを選択するメモリセル群選択線」は「ビット線」とは全く異なるものと解すべきである。
また、本願特許請求の範囲の記載中の「前記複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ前記メモリセル群選択線の選択信号と前記前置ワード線の選択信号とに基づいて活性化される分割ワード線」には、本願の第4図に示す半導体メモリ装置と同様に、複数列にわたってメモリセルが接続され、これらのメモリセルに複数列のビット線が接続されることを当然の前提とするものであることが明らかである。
(2) 取消事由2(信義則違反)
<1> 本願は、特許願昭和57年95932号(原出願)から昭和61年12月12日分割出願されたものであるが、特許願昭和57年95932号から同日に分割された特許出願として、特許願昭和61年第297062号(以下「先願」という。)がある。
本件の審決も、先願の審決も、両発明の構成要件が同一であり、かつ、主たる引用例も同一であるから、同一の争点を主要な先決問題としていることは明らかである。そうすると、信義則ないし法的安定性の観点から、後の審判では先の審判の認定判断に反するか、又はこれと矛盾する認定判断をすることは禁じられていると解すべきである。
本件の審決は、先願に係る審判官のした決定及び審決に反するか、又はこれと矛盾する認定判断をしていることは明白であり、信義則に反するから、違法として取り消されるべきである。
<2> すなわち、先願発明の要旨は、特公平4-21957号公報(甲第7号証)の特許請求の範囲に記載のとおりであり、本願発明と主たる構成要件が同一である。
被告は、先願発明を構成する「メモリセル」の要件として、「入出力端子を互いにクロスカップルした一対のトランジスタとこの各トランジスタの出力対に各々接続された一対の負荷素子と一対のアクセストランジスタとからなる」という限定がある点を主張するが、本願発明では「メモリセル」、先願発明では「スタティックランダムアクセスメモリのメモリセル」であることが特許異議の申立ては理由がないとの結論を導く上で何らの理由になっていないものであるから、この点の被告の主張は理由がない。
<3> 先願は、平成4年4月14日特許出願公告されたが、同年7月14日、先願発明は本件の引用例1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの理由で、特許異議の申立てがあった。
これに対して、特許庁審判官は、平成5年8月16日、「本件特許異議の申立ては、理由がない。」との決定とともに、先願について特許すべき旨の審決をした。その理由は、先願発明の主たる構成要件である(a)メモリセルアレイを列方向に分割すること、(b)メモリセル群選択線を設けること、(c)前置ワード線と分割ワード線を設けること、(d)分割ワード線を前置ワード線の選択信号とメモリセル群選択線の出力信号とに基づいて活性化することが、本件の引用例1には記載も示唆もされていないと認定判断したものである。
第3 原告の主張に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の認定、判断は正当であり、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
<1> メモリセル群
本願特許請求の範囲にいう「列方向に分割して配置した複数のメモリセル群」の構成は、「行、列各方向に複数のメモリセルを配置したメモリセルアレイを列方向に適当数分割して複数のメモリセル群を形成する」ということを意味し、引用例1の第7図に記載されているような「ワード志向メモリアレイ」等の列方向に複数のメモリセルが設けられている構成を排除するものではない。
メモリセル群内の特定のメモリセルにのみアクセス可能な構成とするには、甲第2号証の第2図の従来例のブロック図に記載されているような「各メモリセル群にビット線を配置して、特定のビット線を選択する構成が設けられている」点を構成要件とすることが必要であるが、このような構成は、本願特許請求の範囲には記載されていない。
<2> メモリセル群選択線
引用例1の第7図のXライン70、72、74は、それぞれのXラインがワードセレクタゲート76等により、列方向に分割されたメモリセル群のうち特定のメモリセル群のみを選択するものであるから、本願発明の「複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ各メモリセル群のうち特定のものを選択するメモリセル群選択線」に相当する。
<3> 前置ワード線
引用例1の第7図のYラインは、Xライン70、72、74により列方向に分割された複数のメモリセル群に亘って配置され、しかも直接に個別のメモリセルに信号を選択するものでない点で本願発明の「前置ワード線」と機能において共通するものであるから、引用例1には本願発明の「複数のメモリセル群に亘って配置された前置ワード線」の構成が記載されている。
<4>分割ワード線
(a) また、引用例1の第7図においても、例えばYライン30でアドレス指定をした際にYラインに接続されたすべてのメモリセルを活性化するのではなく、特定のXライン、例えばXライン70でアドレス指定して、Xライン70とYライン30との交点に配置されているワードセレクタゲート76を選択し、このワードセレクタゲート76の出力線に接続されているメモリセルのみを活性化するものであるから、Yラインとワードセレクタゲートの出力線との2つの選択手段により階層的にメモリセル群にアクセスする構成としている点では本願発明のものと共通している。また、本願発明において「分割ワード線」は、メモリセル群内の特定の分割ワード線に接続されている列方向に配置されたすべてのメモリセルに信号を供給するものであるが、引用例1に記載された、ワードセレクトゲートの出力信号線からその出力信号線に接続されたすべてのメモリセル12、12a、12b、12c等に信号を供給する構成と差異はない。よって、引用例1には本願発明の「分割ワード線」の構成が記載されている。
(b) 原告は、引用例1に記載のものにおいては、ワードセレクタゲート76等の出力信号は、Xライン70、72、74の選択信号とYライン30、32、34の選択信号とによって一義的に定まるものではない旨主張するが、甲第6号証図5.30のトランジスタQ1はその出力D1側の端子が符号のないトランジスタ(ゲート端子がVDDに接続されているもの。Q1等のスイッチングを行うFETに対して負荷として作用するものであるので、以下「負荷トランジスタ」という.)を介して、電源端子VDD(甲第6号証194頁の表5.23からも明らかなように通常固定された電位を供給する)に接続されている。これに対して、引用例1の第7図(別紙5参考図3参照)のワードセレクタゲート76、761、762等のMOSFETは、このような負荷トランジスタを有していないばかりでなく、引用例1第9図の信号線70の波形図からも解るように、0Vから-10Vの間の電位で「駆動」されており、この駆動の結果として選択されたワードセレクタゲートの出力線が活性化されメモリセル(12~12c)が読み出されるのである。したがって、引用例1第7図のワードセレクタゲート76等のMOSFETの機能、動作は、参考図2(b)(別紙4参照)のトランジスタQ1の機能、動作とは全く相違しており、両者を等価であるとして行われた原告の考察は成り立ち得ないものである。
さらに、オフであるワードセレクタゲート761、762等の出力は「不定」であるとはいっても現実にレベルが定まらないのではなく、出力線自体が有する浮遊容量によって以前のレベルが保持されているので、選択されていないメモリセルのトランジスタはオフに留まり、メモリセル12を選択しようとして同時にメモリセル112や212が選択されるようなことは起こらず、選択されたメモリセルのみが正しく読み書きされるものである。
<5> メモリセル群選択線について
(a) 仮に、本願発明の実施例において「メモリセル群選択線」とは別の、メモリセルに接続された「ビット線」の存在について明細書に記載されていると認めたとしても、引用例1の構成においても各メモリセル(12、12a、12b、12c)は、本願発明のメモリセル群選択線に相当するXライン(70、72、74)とは別の、本願発明実施例記載のビット線に相当するビットライン38、40、42、44に接続されており、この点において審決の引用例1の認定に誤りはない。また、Xアドレス動作ゲート86等の存在とは関わりなく、引用例1のXアドレス線70、72、74は、Yアドレス線30、32、34と共同して、ワードセレクタゲート76等を駆動し、メモリセル群12、12a、12b、12c等を選択しているのであるから、引用例1には本願発明の「メモリセル群選択線」に相当するものが存在しないとの原告の主張は根拠のないものである。
(b) 原告は、本願特許請求の範囲にいう「メモリセルアレイを列方向に分割して配置した」各「メモリセル群」は、列アドレス信号に基づいて選択される複数の列を含むと解すべきであると主張するが、各メモリセル群は列アドレス信号に基づいて選択される複数の列を含むとの構成は、本願特許請求の範囲には記載されていない事項である。
原告は、本願発明の構成要件にいう「複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ各メモリセル群のうち特定のものを選択するメモリセル群選択線」とは、メモリセルの特定の列あるいは同一列アドレスにある特定の複数列を選択するものではなく、「列方向に分割して配置した複数のメモリセル群」のうち「特定のメモリセル群」を選択するものであると主張するが、本願特許請求の範囲には「メモリセル群選択線」と「列アドレス」の関係につき何ら記載がない以上、これも根拠のない主張である。
(2) 取消事由2(審議則違反)について
<1> 先願(甲第7号証)の特許請求の範囲によれば、先願発明を構成する「メモリセル」の要件として、「入出力端子を互いにクロスカップルした一対のトランジスタとこの各トランジスタの出力対に各々接続された一対の負荷素子と一対のアクセストランジスタとからなる」という限定があり、本願発明の「メモリセル」の構成とは決定的に相違するものであり、異議申立理由に係る証拠(本願の引用例1)には、この先願発明の「メモリセル」に関する上記要件が記載されていないことからしても、先願発明に係る審判における認定判断は、本件に関しては全く当を得ないものである。
<2> また、両審判に共通する証拠の認定判断について、先に出された審決の認定判断に後の審決の認定判断が従わなければならない旨の特許法上の明文の規定はない。さらに、両者は別の審判事件の証拠の認定判断であるから、それぞれ独立した認定判断をすることに何ら問題はない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(2)<2>(引用例2の記載事項の認定)、(3)<2>(b)(相違点の認定)及び(4)(相違点についての判断)は当事者間に争いがない。
2 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) 審決の理由の要点(2)<1>(引用例1の記載事項の認定)のうち、(b)は当事者間に争いがない。
(2)メモリセル群
<1> 甲第3号証によれば、引用例1には「図7及び図8は本発明の概念を具体化した典型的なワード志向メモリアレイを示す。Y線30、32、34にはYアドレスが現れ、X線70、72、74にはXアドレスが現れる。所与の対のXとYアドレスの一致はそれに対応するワード選択ゲート76を動作させる。この選択ゲート76はまた上記の図6に関して説明した態様で選択された語のメモリMOSFET12、12a、12b、12cを使用可能にする。アドレスされたビットから得られる情報は、以下に説明する目的のため、それぞれXアドレス動作ゲート86、88、90及び92によって共通のビット線78、80、82、84に接続されたビット線38、40、42、44に転送される。」(4欄42行ないし55行、訳文13頁5行ないし17行)と記載されていることが認められる。この記載及び第7図によれば、引用例1の第7図のものは、ダイナミックRAMであって、各メモリセルは1つのトランジスタと1つの容量から構成されていること、このメモリはワード志向のもので、4つのメモリに対し1つのアドレスが対応するものであること、及び、第7図には、縦方向(列方向)にそれぞれXライン70、72でエネイブル(活性化)されるメモリセルから構成される2つのブロックに分割されているメモリ装置が開示されていることが認められる。
<2> 前記のとおり、本願発明の要旨(特許請求の範囲)は、「メモリセルをマトリクス状に配置したメモリセルアレイを列方向に分割して配置した複数のメモリセル群」というものであり、それ以上の限定はないものである。
そうすると、上記<1>に認定の引用例1の第7図のものは、本願特許請求の範囲に含まれるものである。
<3> 原告は、本願特許請求の範囲にいう各メモリセル群は列アドレス信号に基づいて選択される複数の列を含むと解すべきであると主張するが、本願特許請求の範囲の記載は上記とおりであって、それ以上に各メモリセル群の構成を限定する記載はないから、この点の原告の主張は採用することができない。
<4> したがって、引用例1のMOSFET12、12a、12b、12c等の列方向に分割された複数のメモリセル群は、本願発明の「メモリセルをマトリクス状に配置したメモリセルアレイを列方向に分割して配置した複数のメモリセル群」に相当するとの審決の認定に誤りはない。
(3) メモリセル群選択線
<1> 引用例1の第7図において、列(縦)方向に分割されたメモリセル群が存在することは、前記(2)のとおりであり、Xライン70、72、74は、列(縦)方向に分割されたメモリセル群に対応し、特定のメモリセル群を選択するものであると認められる。したがって、引用例1のXライン70、72、74は、列方向に分割されたメモリセル群に対応して設けられ、特定のメモリセル群を選択するものであるから、本願発明の「複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ各メモリセル群のうちの特定のものを選択するメモリセル群選択線」に相当するとの審決の認定に誤りはない。
<2> 原告は、本願発明は列アドレス信号でその特定のメモリセルアレイ群の中の特定の列を選択するように構成されているものである旨主張するが、本願特許請求の範囲には、引用例1の第7図のものを含まないものとするために必要な列アドレス信号を加える構成が記載されておらず、また、その点が記載されているに等しいと解することもできないから、この点の原告の主張は採用することができない。
(4) 前置ワード線
引用例1の第7図のものにおいて、列方向に分割されたメモリセル群が存在することは、前記(2)のとおりであるから、引用例1のYライン30、32、34も列方向に分割されたメモリセル群を複数列貫通して配置されているものである。したがって、本願発明の「前置ワード線」は、列方向に分割されたメモリセル群を複数列貫通して配置されたものであるが、引用例1のYライン30、32、34も列方向に分割されたメモリセル群を複数列貫通して配置されているから、本願発明の「複数のメモリセル群に亘って配置された前置ワード線」に相当するとの審決の認定に誤りはない。
(5) 分割ワード線
甲第2号証によれば、本願明細書には、「この構成による半導体メモリセル装置(注・第2図に示す従来の半導体メモリ装置)は同一行上のすべてのメモリセルが活性化されるので、全列に電源からメモリセルに電流が流れ込み、コラム数の多い大容量スタティックRAMを構成する場合、消費電力が大きくなる。そこで、消費電流を少なくするため、従来、第4図に示す半導体メモリ装置が提案されている。この場合、行デコーダ4をメモリセルプレーンの中央に配し、ワード線を左側ワード線3aおよび右側ワード線3bに分割し、左右のメモリセル群の選択された方のメモリセル群のワード線のみ活性化することにより、全列の内、半数の列にだけ電流パスを生じさせるものである。なお、12aおよび12bはそれぞれ左側ワード線3aあるいは右側ワード線3bを選択するアンドゲート、13aおよび13bはそれぞれこのアンドゲート12aおよび12bを開状態にするゲート信号線である。
次に、第5図は第4図の思想に基づいて構成した従来の半導体メモリ装置を示す配置図である。この場合、行デコーダ4aおよび4bを複数列配置し、ワード線3a~3bをその倍数だけ分割し、直流電流路のできる数を減少させるものである。」(3欄21行ないし43行)と記載されていることが認められる。
この記載によれば、本願発明における分割ワード線の分割とは、本願明細書の第4図(別紙1参照)で示されるメモリ装置において、ワード線をメモリセル群ごと(左右のメモリセル群ごと)に活性化するように分割することを意味するものと認められる。
他方、引用例1の第7図において、ワードセレクタゲート76の出力、すなわちFET素子の12、12a、12b、12cのゲートを接続する線は、Yライン30をメモリセル群ごとに活性化するものであるから、Yラインを分割するものと認められる。
そうすると、引用例1において、ワードセレクタゲート76等のMOSFETは、Xライン70の選択信号と、Yライン30の選択信号とに基づいて活性化され、その出力側に接続されたMOSFET12、12a、12b、12c等の信号を供給するものであるから、引用例1のワードセレクタゲート76等の出力信号線は、本願発明と同様にワード指定の信号を階層的にメモリセルに供給するものであり、本願発明の「複数のメモリセル群の各々に対応して設けられ前記メモリセル群選択線の選択信号と前記前置ワード線の選択信号とに基づいて活性化される分割ワード線」に対応するとの審決の認定に誤りはない。
(6) 分割ワード線に関する原告の主張について
原告は、引用例1に記載のものにおいては、ワードセレクタゲート76等の出力信号は、Xライン70、72、74の選択信号とYライン30、32、34の選択信号とによって一義的に定まるものではないから、本願発明のように「前記メモリセル群選択線の選択信号と前記前置ワード線の選択信号とに基づいて活性化される分割ワード線」を備えているとはいえない旨主張する。
しかしながら、参考図2(b)(別紙4参照)の構成は、参考図2(a)(別紙4参照)のNAND回路の構成であり、FETが直列接続された形になっているものであるのに対し、引用例1の第7図ワードセレクタゲートのトランジスタQ1は、FETが直列接続された回路を構成していないものであるから、参考図2(b)のトランジスタQ1は、引用例1第7図(なお、参考図3(別紙5)参照)のワードセレクタゲート76、761、762等のMOSFETと等価であることが認められないものである。そうすると、これを前提とする、メモリセル12を選択しようとしても、同時にメモリセル112や212が選択されるとの原告の主張も、採用することができない。
また、甲第6号証によれば、図5.30(参考図2(別紙4)(b)参照)のトランジスタQ1はその出力D1側の端子が負荷トランジスタ(Q1の上のもの)を介して、電源端子VDD(甲第6号証194頁の表5.23からも明らかなように通常固定された電位を供給する。)に接続されているのに対し、引用例1の第7図のワードセレクタゲート76、761、762等のMOSFETは、このような負荷トランジスタを有していないばかりでなく、甲第3号証(第9図の信号線70の波形図)によれば、0Vから-10Vの間の電位で「駆動」されていることが認められ、この駆動の結果として選択されたワードセレクタゲートの出力線が活性化されメモリセル(12ないし12c)が読み出されるものである。したがって、引用例1第7図のワードセレクタゲート76等のMOSFETの機能、動作は、参考図2(b)のトランジスタQ1の機能、動作とは全く相違しており、両者を等価であることを前提とする原告の主張は成り立ち得ないものである。
さらに、仮に、引用例1の第7図のワードセレクタゲート761、762等のトランジスタがオフである場合には、その出力信号は「不定」となるとの原告の主張が正しいとしても、甲第3号証によれば、引用例1には、アドレスの選択について、「図9からわかるように、アドレスの開始はすべてのビット線が論理「0」にリセットされた時点でなされる。」(3欄62行ないし64行、訳文10頁7行ないし9行)、「図7の読取り、書込み、復元及びプリセット回路は図6のものと同じものである。ただし、XアドレスがYアドレスのようにφ1とφ2のクロックタイム中にのみ現れるとするならば、追加のプリセットゲート94、96、98、100は個別ビット線38、40、42、44を放電することが必要とされる。」(4欄56行ないし61行、訳文13頁18行ないし14頁3行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、引用例1ではこの回路が動作するようにリセット等の動作条件が設定されていると解するべきである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(7) 以上によれば、原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(信義則違反)について
(1) 原告は、本件の審決も、先願の審決も、両発明の構成要件が同一であり、かつ、主たる引用例も同一であるから、同一の争点を主要な先決問題としていることは明らかであり、信義則ないし法的安定性の観点から、後の審判では先の審判の認定判断に反するか、又はこれと矛盾する認定判断をすることは禁じられていると解すべきである旨主張するが、別事件である先願の審決における判断が後行の本件の審決における判断を拘束すると解すべき根拠はないから、この点の原告の主張は採用することができない。
(2) しかも、甲第7号証によれば、先願発明は、「入出力端子を互いにクロスカップルした一対のトランジスタとこの各トランジスタの出力対に各々接続された一対の負荷端子と一対のアクセストランジスタとからなるメモリセル」からなるメモリセル群を備えていることが認められ、前記のとおり、何らの限定のないメモリセルを有する本願発明とは異なるものであるから、原告の主張は、そもそも両発明の構成要件が同一であるとの前提を欠き、採用することができない。
(3) したがって、原告主張の取消事由2は理由がない。
4 よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年5月26日口頭弁論終結)。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙1
<省略>
<省略>
別紙2
Oct. 6, 1970 S.E. WAHLSTROM 3,533,089
SINGLE-RAIL MOSFET MENORY WITH CAPACITIVE STORAGE
Filed May 16, 1969 5 Sheets-Sheet 3
<省略>
別紙3
<省略>
別紙4
参考図 2
(a) 甲第5号証193頁図5.30
(b)上記(a)図で、Q2及びQ3がオフの場合
<省略>
別紙5
参考図 3
甲第3号証 FIG7における選択動作
(Xアドレス線70、Yアドレス線30が、”H”の場合)
<省略>